2013年2・3月号


あたたかな暮らし



なごり雪降る3月のある日、お着物を
新調したという古いお人形を見せてい
ただく機会がありました。
趣味のよい調度品が配置されたその
方のお宅におじゃまして、ひとしきり人
形談義のあとはお茶とお菓子で、また
和やかなひとときを過ごしました。
子供の晴れ着で仕立てられた着物の
愛らしい市松人形さんたちや、おじ様
が彫られたという素朴なおひな様や
茶たく。
水墨画や書は立派に表装してあって、
どれもが慈しみ大切に扱われてきた
あたたかな光を放っていました。

おもちゃとは分解して遊ぶもの、と研究
熱心なこどもだった私には雛段に飾れ
るような、五体満足な人形などありませ
んでした。
それに、父との二人暮らし、年中行事
並みに引っ越しを繰り返していたから
季節のしつらえまで手が回らなかった
のでしょう。



年の瀬の市のにぎわいの中、「あなた
、縫い物はなさる?」
誘われて布の山を掘り返すことになり
ました。
ある一人の女性が生涯手作りに情熱
を燃やした、押入れ2間分の遺品で
す。天井の高い客間の壁に、裂き織
の大判カバーやスーツがさがり、段ボ
ールや衣装ケースにびっしり入ったあ
らゆる種類の布また布…。
古くてもきちんと保管してあったから
状態がよく値札が付いたままの新品
もあります。
 綿ホコリをかぶりながら選んだのは
キルティングの生地とウール服地、
コットンプリント地など。


譲ってもらった布地はすぐ洗って地
直ししました。
キルティング地7Mからは長方形の
こたつカバーを、あまった布で、ティ
ーコゼーとマット、なべ帽子を縫い
ました。


古くても、いいものは大切に受け継
がれていく。豊かな時間を吸収して
ものも人も育ってゆく。
いい体験をさせていただきました。



心も暮らしもあたたかくなって、寒い
季節も楽しめそうです。






ローマの大道芸人
もちろんチップを要求されました。






〈その14・イタリア後編〉


ふたたびイタリアをたずねたのは
2004年秋。
モロッコのカサブランカから、ローマ
へと飛んだ。そのモロッコ紀行はい
つかの機会に譲るとして…
ぎっくり腰、風邪、腹下しという最悪
の体を引きずってローマ行きアリタ
リア機に乗り込み深い安堵の溜息
をもらす。
「やっと文明国に行ける」と。
 ローマのホテルに着いたのは夜
半過ぎ。なにはともあれ、腹ごしら
えだとバールに入ったが、どうにも
腹具合がおかしい。翌日でかけた
「トレビの泉」前でも気を失いそうな
差し込みがきた。明後日はフィレン
ツェにいる友達夫婦とのディナーの
約束があるのに。その確認の電話
を切ったまさにその時、ペットボトル
「モロッコのミネラルウォーター」に
目が行く。
腹痛の原因はこれだっ!
気づくの遅すぎ、ユーロ高すぎであ
る。が、イヤなことはすべて水に流
して仕切り直し。
さっそくスケッチブックを持って念願
のフィレンツェ街歩き、美術館へ、
お買いものへと飛び出した。
友人が連れて行ってくれたピッツェリ
アで。このピッツアにはこのワインね、
ここのサラダもおいしいよ。デザート
までたどり着けるかな。
乾いたスポンジと化していた私。
おしゃべりと食事、街の風と音、何も
かもを吸い込み転がるようにベッドに
倒れ込んで思うのは
「もったいなかったな、ローマ」


フィェンツェの夕暮れ
ウフィッツイ美術館より


  


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