2015年6・7月号


ピアノ調律師
後藤盛一郎さん





直すならできるかも

近所にピアノ教室があり姉が習っていたので、
小学校に入ってから一緒に習い始めました。
高校を出るまでなんとなく習い続けて、嫌い
ではなかったんでしょうね。
高校では部活動で美術と、吹奏楽のチューバ
をやっていました。
吹奏楽をやっているうちに段々楽器の方に興味
が湧き演奏家にはなれないし、直すことならで
きるかもしれないと思いました。
ピアノの調律を学べる専門学校や大学は
あったのですが、高校の先生がピアノメーカー
の調律師養成コースの方が早くて費用も安い
と教えてくれたんです。
試験は入社試験のような感じで、作文、面接、
簡単な学科試験に加え、和音と単音を聞き
分ける試験もあった。
絶対音感がないので、聞き分けると言っても
できないですよね。
でも合格したので(笑)。
それに、音を合わせる試験があり、道具を
使って実際にやったんですよね。
その時急にやってみたんですが、でもまぁ、
それで通りました。


仕事と七つ道具

ピアノは弾く人が直せる楽器ではないので、
調律師が直します。
使用者の要望に添うようにピアノの調子を
整えることが仕事ですね。
音階を作るチューニングの仕事がまずあって、
それがやっぱり一番大事。
その次は色んなからくりの調整や音が出ない
時等の修理。要望があれば塗装もします。
大掛かりなものでは、弦の全張り替えとか、
部品交換もします。
養成コースに入ったその日から実際に音を
合わせ、割り振りという基礎音階を作る作業
を、とにかく繰り返し繰り返しやって覚えました。
音階の理論をまず理解して、実際にピアノに
触ってあとは自分で音を聴いて覚えていく
という、本当にそれの繰り返しです。
実際に工具を持って動かすので、理屈だけじゃ
できないんですよね。
良いと思う所でぴたっと止めたり、ハンマー
(調弦の道具)を思うように操したりする技が
必要で、職人の面があります。
道具はハンマー、ミュート(余分な音を抑える
道具)、色んなドライバーと音叉さえあれば
チューニングはできます。
それに、タッチを直す色々な工具と塗装の
道具もあります。




調律師を諦めず

一年間研修を受けて、二年目から配属です。
不安はありましたが、直すことについては
不思議と不安はなかったですね。
でも民間企業なので、やっぱり稼いでこないと
いけなくて。
調律だけではなくピアノ販売のノルマもあり、
営業と同じで常に数字を上げていかなきゃ
いけないような感じでした。ほとんど怒られる
のが仕事、みたいな十五年間でしたね。
十年前にやむを得ない事情で佐渡に帰って
きました。自分のお客さんができて、ある程度
基盤ができてきた頃に辞めるのはちょっと
残念だなぁという気持ちはありましたが、調律
は諦めるつもりでした。
戻ってきて最初の仕事は森林組合の現場作業
員。冬場は作業がなく休みになります。
他の仕事をしている人も多く、僕も休みを取って
調律の仕事を再開してみようかなと思ったのが
佐渡でまた始めるきっかけになりました。
佐渡にピアノを運んでくるので調律を、という
のがお客さん第一号だったと思います。
四年ぐらい森林組合で働き、次は漁協で
お世話になりました。
船に乗って漁をする仕事を半年ぐらいして、
その後ごく最近まで事務方の仕事をしました。
第一次産業に関わり佐渡の人達の暮らしぶり
を間近に見て、サラリーマン時代とは全然
違う経験ができましたが、自分の気持ちとして
は調律師としてやっていきたいという気持ちが
どこかにありました。


人が集まる場所を作りたい

僕が調律師として学んできたここと、一般の
お客さんの考えていることっていうのはやっ
ぱり全然違うんですよね。
でも、使うのは僕ではないので、色々要望が
あったら、お客さんの好みにできるだけ応え
られるようにしていくことが大事だと思います。
四年前に国家技能検定制度ができて、今回
一級を受験し先日合格通知が来ましたが、
これで終着点じゃなくて、これからも技術の
研鑽を積んでいきたいです。
果てしなく続く終わりのない世界ですけど、ピ
アノの調律は中心にしつつも、今後はちょっと
チェンバロのことを勉強していきたいなと思い
ます。父が遺していった家があるので、これか
ら自分で拠点として使えるように改造していき
ます。両津港のあいぽーと佐渡に近いので、
もうちょっと綺麗になったら誰にでも来ていた
だけるような雰囲気にして、人が集う場所に
できればと思っています。



後藤ピアノ調律所
TEL:0259-27-2217




 

佐渡情報

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