2016年12・1月号


大川屋外版画美術館


集落そのものが版画の美術館となっ
た、両津地区大川「屋外版画美術館」
見学記。





赤い橋

両津から東海岸線沿いに小木方面へ
二十分ほど車を走らせると、津神神社
へ架かる赤い橋が目に入り大川に到
着。縄文中期の遺物が出土し、北前
船の寄港として賑わった歴史を持つ、
五十戸ほどの集落です。


展示数は少ないが

ひっそりとした集落に足を踏み入れる
と、民家の壁にいきなり版画が貼り付
けてあり少々意表をつかれました。
まごうことなく屋外美術館です。
版画といえば普通は紙に摺られたもの
ですが、これは金属のプレートに転写
されていて、最近は見かけなくなった、
蚊取り線香や栄養ドリンクの琺瑯看板
を思い出しました。特殊な加工が施さ
れているのか、懐かしの琺瑯看板とは
違って綺麗な状態を保っており、版画
の白い部分と民家の壁とのコントラス
トがとても新鮮に見えます。

「順路」と書かれた矢印に沿って歩くと、
作品がちらほらと目に入ります。
もっとびっしりと展示されているのだと
思っていたので、このちらほらにやや
拍子抜けする思いでした。
「順路」の指示も何だか良く分からなく
なりました。

歩くうちに、窓に映る自分の姿が不審
者のように見えへ始め、そろそろ帰ろ
うと路地を曲がると、いきなり大作が
現れてびっくり。
見上げれば高い所にも一枚発見。
空と版画が同時に飛び込んでくるなん
てかなり斬新な展示法です。
探せばまだあるのではないか。こうな
ると作品を見つける面白さが湧き、版
画ラリーのようになってきました。
生活感溢れる空間の中で作品を探し
まわるなど、通常の美術館ではこうい
う楽しみ方はあまりないでしょう。




版画による民族博物館

展示されている百点ほどの作品に難
解なものはありません。
日常の一こまをはじめ、生活用具や
祭りの風景などをテーマにした、素材
で穏やかに、時には力強くこちらに語
りかけてくるような作品ばかりです。
大川の人々が、この地で生きることそ
のものをモノクロームの世界に変換し、
定着させているのだと感じました。

そういう意味でこれらの作品は美術的
な価値のみならず、民俗学的資料とし
ての価値も大きいといえるでしょう。
五十年後百年後の人は、きっとこれか
らの版画から多くのことを学ぶに違い
ありません。




大川版画グループの方のお話

大川での版画製作は、四十年ほど前に
青年団の活動の一環として、高橋信一
先生(※)の指導を受けて始まりました。

五年ほど前、佐渡市のチャレンジ事業
や相川の佐渡版画村、他にも多くの方
々の支援を得て、屋外版画村美術館が
できました。
今は版画グループ代表藤井敏夫 他八
名で摺っていて、毎年カレンダーも製作
しています。
アルミのプレートに転写して展示して
あるのは、作品を作った人と、版画の
題材に縁のある家となっています。
色々な人が見に来てくれれば嬉しいの
ですが、何よりも自分たちがこの大川
の生活を再認識することで誇りを持ち、
それが活性化に繋がることが大切だと
思っています。





(※)高橋信一
(たかはししんいち 1917〜1986)
新潟県佐渡市浜梅津出身。
元両津高校美術教師。版画家。
1960年恩地賞受賞
1978年年両津市長表彰
1981年新潟県知事表彰
1976年スイス・ザイロン展受賞
1982年サントリー地域文化賞受賞
1984年佐渡版画村美術館設立
初代理事長に就任
1986年信越郵政局長賞受賞及び勲五等
双光旭日章授章





*大川屋外版画美術館
両津港から東海岸線を車で約20分
バス東海岸線「大川」下車
小木港から車で70分

お願い
集落内では普段の生活が営まれてい
ます。住民に配慮したご見学をお願い
します。


  

佐渡情報

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