2020年2・3月号




佐渡国小木民俗博物館







初めて小木民俗博物館を訪れたのは40年前の
こと。
廃校を利用したとあって、建物そのものがすでに
展示物です。
教室毎にテーマを設け、中を覗けば古びた民具
やら何やらが所狭しと並び、展示というより、
ちょっと置いておいたまま年月が経ってしまった、
という感じでした。
多くの博物館が放つ威圧感のようなものはなく、
気軽に対応して下さった館長さんが近所のお寺
のご住職だったりして、私の博物館に対するイメ
ージが一変しました。
連れの外国人の感想を書いてくれと頼まれ、英語
の苦手な私は「昔の暮らしぶりが良く分り、展示
物に触ることができて素晴らしかった云々」
と、自分の感想を英語と併記きてお渡ししました。
後に展示室の一角に貼られたその紙を目にし、
大いにうろたえました。
もちろん今はどこにも見当たりません。

博物館指導員の高藤一郎平さんに設立当時の
お話をお聞きしました。





「この博物館は宮本常一先生
(民俗学者 1907年〜1981年)の提案で1972年に
できました。
当時は高度経済成長期でランプから電球、井戸
から水道、薪からガス、竹や木からプラスティック
にと、生活環境が激変した時期です。
佐渡の調査に来ていた宮本先生が、古くて使わ
なくなった物は何でも捨てずに集めて博物館にし
なさいと」

現在では展示物棚も増えて整理が進み、かなり
すっきりした感じになりました。
しかしこの博物館の一番の特徴はやはり露出展
示、つまりガラスケースなどに入れず(一部はガラ
スケースに収納)展示物が剥き出しになっている
ことでしょう。
見るだけではなく、実際に触れることや臭いを嗅
ぐことも可能です。





「当時は民俗学をよく知らないし、廃校を国民宿
舎か工場にという話もあって、そもそも捨てる
ような物を見に来る人がいるのかと。
それでも有志で先生の大学(武蔵野美術大学)の
学生と協力して、農具は漁具などを貰いに行き
ました。
その内に地元の人が持って来てくれたり、逆に博
物館が集めるということは価値があるのではと
思う人も出たりして(笑)。
廃品処理場から取り戻してきたものも結構あり、
集められた民具は五千点ほど。
私は設立のための申請手続きなどを手探りでや
ってました」

宮本常一は調査研究のため三千以上もの地域を
訪ね歩く中、活気を失いつつある地域の再生にも
力を注ぎ、佐渡においても離島振興法の成立や
おけさ柿生産の奨励、古典芸能の復興などに大
きな足跡を残しました。
小木民俗博物館設立もその一環として、観光客を
呼び込んで収益を図るのはもちろんのこと、地元
の人々が力を合わせることで地域を活性化させ、
誇りや自信を持つことができるのではないかと考
えていました。





「現在では農具、漁具、船大工道具、生活用具な
ど約三万点。
収蔵庫もあってそちらにも保管しています。
露出展示はこの博物館の特徴ですが、残念なこ
とに展示物が失くなっていることがあって・・・。
防犯カメラが無いので解説員が居れば良いんで
すが、性善説を信じるというか頼るというか。
正直なところ運営の方も厳しくて難問山積みです」





いずれの道具も、長い時間の中で考え抜かれて
実用化された「知恵の塊」であるといえます。
道具というものは使われてこそ、その本領を発揮
することができます。博物館ではかつて民具を使
ったワークショップが行われていたようですが、
この取扱説明書も保証書も無い「知恵の塊」が崩
れ去る前に、是非とも再開して欲しいものです。





*佐渡国小木民俗博物館
(本館、新館、「白山丸」展示館)

〒952-0612
新潟県佐渡市宿根木270番地2

開館時間 8:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日  12月〜2月の月曜日、年末年始
入館料  大人500円、小・中学生200円






  

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