情報 2009年3月25日
エスライフ 09年4・5月号

イタリアから故郷を想うC


外国に住んでいると、懐かしくなってくるものといえば、日本食です。

やはり、小さい頃から食べ親しんだものというのは、どこか体の奥に染み付いているようです。

僕はイタリアのジェノヴァという街に住んでいますが、日本食材が手に入るのは、中国のスーパーくらいです。

店の隅に日本コーナーがあり、わずかな品が置いてあるだけです。

しかも、海苔やしょうゆといった基本の素材が、かなり高い値段で売られています。

日本レストランはというと、ここ数年でジェノヴァでも何軒か出店されました。

そのほとんどはイタリア人が経営者で、日本人ではない他のアジアの国の人たちか、

イタリア人が厨房に立っています。

中には日本の味とはやや異なる店もあるのが実情です。

ジェノヴァにSINTHESYという日本食のレストランが出来て、

そこに去年の11月からシェフとして働き始めた前田さんに、お話を伺ってみました。

― 簡単な経歴を教えて下さい

「日本ではホテルで主に働いて、その後ミラノの日本料理店で約10年ほど働きました」

― 客はイタリア人が主だと思いますが、彼らの反応はどうでしょうか

「寿司だと好きになるとハマる人が多く、しょっちゅう食べに来る常連さんも多いです。

そういう人は日本についての興味も強く、いろいろな質問を投げかけてきますよ。

その一方で、口に合わない人はまったくダメと、二通りに分かれてしまうようです。

何が客に合わなかったかというのは、残した皿を見ると一発でわかります。

客の好みを少しでも料理に反映させたほうがいいと思っているので、現在違ったメニューを考案中です」

― イタリアでは日本食が静かなブームなようですが

「そうですね。特に大都市のミラノなんかでは、“スローフード”、つまり健康食として

とらえられている面があります。

イタリアでもやはり肥満ということが近年の問題でして、家庭などでも料理はなるべく

ボリュームあるものは避ける傾向にあるようです。

伝統的なイタリア料理では、まず“おいしい”というのが優先事項なのですが、

和食だと“健康的”というのがまず一番に来ますからね。

日本でも健康的な観点から和食が見直されているのと同じように、

イタリアでも健康食としての日本食が認識されるようになってきました。

といっても、まだまだイタリアでは日本食はマイナーですけれどね」

イタリアから故郷を想う D

去年の9月に日本に帰国した際、僕はトキ10羽が放鳥されたことを初めて新聞で知りました。

2003年10月10日に「キン」が死んで、日本産のトキが完全に絶滅。

このニュースを知ったときは、とても寂しい気がしたのを覚えています。

日本初の人工繁殖が成功したのが1999年。

「ユウユウ」が誕生し、その後、順調にトキの数が増えて、2008年には121羽にまで増えました。

銃が普及した明治期に乱獲されたため、トキは一気に姿を消してしまいました。

そのために天然記念物に指定されて、保護活動が行われるようになります。

2008年9月にはトキの放鳥が実現されました。

1981年に全鳥が捕獲されて以来、実に27年ぶりに自然の空にトキが羽ばたきました。

佐渡の空を飛ぶトキの姿というのはさぞかし美しかったことでしょう。

保護施設ではなくて、自然の大空に羽ばたくトキが本来の姿なのですから。

調べてみると、トキというのは他にもいろいろな種類がいるようです。

クロトキ、マダガスカルトキ、ミドリトキ、など・・・。

中国だけでなく、世界のあちこちに生息しているんですね(ここイタリアの北部でもクロトキが生息しています)。

個人的な意見ですが、日本のトキというのは他の種類よりも別格です。

日本のトキのような鮮やかな「朱鷺色」をしたトキは他に見つかりません。

とにかく日本のトキの姿というのは優雅で、その色彩は繊細でもあります。

白い体、赤い頭と足。これは日の丸を彷彿させる色でもあるし、

学名である「ニッポニア・ニッポン」という名前も、とてもかっこよく響きます。

トキが自然の中で暮らしてゆくには、いまの環境では厳しい点もあるようです。

でも、多くの人々の願いでもありますし、僕もイタリアから何とかうまくいくことを静かに願っています。

佐渡に帰り、ふと空を見上げたら、トキの優雅に飛ぶ姿が見えた・・・

そんな風景が日常にあったら、とても素敵なことではありませんか。

がんばれ、ニッポニア・ニッポン! トキ!


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